黒谷(板野、德島)にある大日寺(だいにちじ、4番、真言宗)の南の地蔵寺のあるところの地名は、羅漢といいます。本堂の裏のもと寺があったところを、江戸時代の中頃に地ならしをして五百羅漢を安置して奥の院としました。
羅漢堂では、正面に釈迦如来、右手にはお大師さん、左手に弥勒さんが祭られています。弥勒さんはお釈迦さんが亡くなって56億7000万年たってからこの世に救済に現れる仏さんであり、今は中間の時期なので、その間は羅漢さんに救ってもらおうという意味です。
第5番地蔵寺奥の院 五百羅漢堂内部(羅漢、板野、google画像)
(解説) 羅漢は阿羅漢(あらかん)の略で、煩悩をすべて断滅して最高の境地に達した人です。狭義には小乗仏教の理想の仏です。お釈迦さんの五百人のお弟子さんは、お釈迦さんから、お前は覚(さと)った、ということで、授記(じゅき)という覚りの許可状のようなものをもらって羅漢になりました。 ということで、釈迦崇拝が五百羅漢の崇拝になっています。
ところが、一般民衆は五百の菩薩の格好をした顔がおもしろいので、亡くなった人の面影を羅漢さんの中に探すという信仰の方に変わって行きました。地蔵寺奥の院の五百羅漢さんでも、亡くなった人の供養にお参りするようです。
ところで、生垣(いけがき)に使う槙(マキ)には、羅漢さんとどこか似た、ラカンマキ(羅漢槙)と呼ばれるマキ科の常緑小高木があります。
ラカンマキ(羅漢槙、上 羅漢槙の実、 下 羅漢槙の葉、google画像)
(解説) ラカンマキ(羅漢槙)は中国原産と言われています。イヌマキの変種で、イヌマキより枝が多く、葉は密生して短く、幅狭く、高さは5m内外です。
雌雄異株で、実の形が僧侶になる前の羅漢さんに似ているところから、羅漢槙の名が付きました。また、その葉の形が、衣を着た羅漢さんとよく似ていることにも由来しています。種子は楕円形、青緑色で、赤くなったところは、甘く、おいしいです。私は生家(引野、板野)の槙の実を食べたことがあります。槙は、建材、器具材、桶(おけ)などにも使われています。
(参考文献) 下中邦彦編: 小百科事典、平凡社(1973); 新村出編: 広辞苑(第四版)、岩波書店(1991); 五来重: 四国遍路の寺、下、p.49、地蔵寺、五百羅漢は釈迦信仰から、角川ソフィア文庫(2009).
(参考資料) 地蔵寺五百羅漢(板野、德島): http://www41.tok2.com/home/kanihei5/tokusima-jizoji.html;
マキ(槙の葉の形、イヌマキ、コウヤマキ、ナギ、ラカンマキ、google画像): http://www26.tok2.com/home/sasatuushin/sasatuushin/tool/sokuzyou2-shinyouzyu/sokuzyou2-shinyouzyu.html;
ラカンマキ(槙の実、植物図鑑、google画像): http://eco.goo.ne.jp/nature/plant/data/data264.html;
ラカンマキ(羅漢槙、槙の実、生垣、google画像)http://had0.big.ous.ac.jp/plantsdic/gymnospermae/podocarpaceae/rakanmaki/rakanmaki.htm.
(追加説明) ○ 大乗仏教は、紀元前後頃からインドに起こった改革派の仏教です。従来の部派仏教が出家者中心、自利中心であったのを小乗仏教として批判し、それに対し、自分たちを菩薩と呼んで、在家者を重視し、利他中心の立場をとりました。中国、日本、チベットなどの北方仏教は、大乗仏教の流れを受けています。